かつてフェミニズムや男女平等を批判していた安倍晋三首相率いる第二次安倍政権は,2012年以降,女性の社会進出を後押しする政策を積極的に促進し,2015年には女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)を成立させている。女性活躍推進法は,女性政策ではなく,女性を利用しようとする経済政策であるとの批判が多いが,一方では女性のための政策としての側面もあるとの指摘もあり,保守政権による女性政策の興味深いケースとなっている。本稿は,女性活躍推進法の審議過程における女性の実質的代表の内実を明らかにすることを目的とする。具体的には,安倍政権による女性政策,また,女性の実質的代表に関する先行研究の知見から導き出した二つのリサーチクエスチョンへの答えを,法案審議での議員発言をデータとして提示することが本稿の課題である。第一に,女性活躍推進法が女性活用の経済政策であるという評価から,審議過程においても,女性の利益や権利を代表する発言よりも,女性を経済成長や少子高齢化社会における資源として活用しようとする発言が多いのかどうかを探る。第二に,女性を実質的に代表する発言があるとすれば,どのような発言内容が見られるのかを明らかにする。特に,保守政党である自由民主党が多数を占めている国会での審議においては,女性の家庭内ケア提供役割を所与とした女性のための発言が大勢を占めているのかに注目する。これらのリサーチクエスチョンに答えることで,女性活躍推進法を巡る女性の実質的代表の有り様,また保守主義と女性の実質的代表の関係を明らかし,女性の実質的代表の研究に貢献することを目指す。分析の結果,女性を活用しようとする発言は,女性を代表する発言,また女性活用の姿勢を批判する発言と比べて数が少なかったこと,議員発言によって多種多様な女性が代表されていることが明らかになった。また,保守系議員による,女性の家庭内ケア提供役割を所与とした保守的な女性の代表発言がある一方で,主に野党議員による,保守的ではない女性の代表発言も多くあったことも示された。これらの分析結果は,保守政権が支配する議会であっても,非保守的な女性の実質的代表が,少なくとも審議過程においては可能であることを示唆している。